ポストプロダクション会社のM&Aでは、編集室やMA室があることに加えて、どの顧客が、どの担当者・設備を使い、どの程度の利益を生んでいるかを整理します。設備、人材、ソフトウェア、素材データを分けて確認するための実務チェックリストです。
編集・MA・カラーを工程別に見る
オンライン編集、オフライン編集、MA、カラー、CG等をまとめた売上だけでは、買い手は設備と人員の負荷を判断できません。工程ごとに、顧客、担当者、利用時間、単価、外注、修正作業を記録します。複数工程を一括受注している場合は、社内の配分方法も明記します。
稼働率は、分母と有償・無償の内訳をそろえる
「予約で埋まっている時間」と「請求できる時間」は同じではありません。稼働率を説明する際は、営業日、利用可能時間、メンテナンス休止、有償作業、無償修正、社内作業の定義を示します。部屋が空いていても担当者が不足して受注できない場合があるため、人員の稼働も併せて確認します。
| 区分 | 用意する記録 | 確認すること |
|---|---|---|
| 部屋・設備 | 編集室・MA室別の稼働、機材一覧、保守記録。 | 有償利用、休止時間、品質維持に必要な更新。 |
| 採算 | 案件別売上、外注費、担当工数、追加修正。 | 工程ごとの採算と請求できていない作業。 |
| 人材 | エディター、ミキサー、カラリスト等の役割表。 | 指名依存、代替担当、継続意向、技術の引継ぎ。 |
| 契約 | 賃貸借、リース、保守、ソフトウェア、顧客契約。 | 名義、更新、解約、譲渡・支配権変更の条件。 |
| 素材・権利 | 案件別のデータ台帳、許諾記録、保管ルール。 | 利用可能な範囲、保存期限、削除義務、再編集の条件。 |
設備は、簿価だけでなく承継後の更新負担を確認する
機材の一覧には、取得時期、型番、所有者、リース残額、保守契約、現状の不具合、更新予定を記載します。高額な設備でも、買い手の制作環境と合わなければ移設や置換が必要になることがあります。
拠点を維持する場合は、賃貸借契約、原状回復、防音・電源・空調、回線、入退室管理も対象です。移転する場合には、データ移行や設備再設置だけでなく、営業を止める期間と顧客対応を見込みます。会社全体の評価との関係は企業価値評価ガイドをご覧ください。
指名される技術者と、チームで再現できる作業を分ける
特定のエディターやミキサーに顧客が集中する場合、その人の継続意向、担当できる案件数、代替担当、引継ぎ期間を確認します。本人の意向を確認せずに、買い手へ継続を約束しないことが大切です。
プリセット、テンプレート、チェック基準、顧客別の納品仕様は、再現可能な手順として残します。一方、外部クリエイターへの依頼は、社員の配置変更と同じ扱いにはできません。契約、依頼条件、今後の協力意向を確認します。取引条件や支払に関する制度の確認先として、公正取引委員会「フリーランス法Q&A」があります。適用対象は取引の実態によって確認してください。
ソフトウェアとデータは、ログインできれば承継完了ではない
編集・音声・カラー等のソフトウェア、プラグイン、フォント、ストック素材、クラウドについて、契約者、利用者、ライセンス数、更新日、移転条件を一覧にします。代表者個人の契約と法人契約も分けます。認証情報の共有だけで済ませず、必要な名義・権限の手続を提供元と確認します。
データについては、納品マスター、編集プロジェクト、素材、プロキシ、音声素材、使用ソフトのバージョン、必要なプラグインを記録します。バックアップの有無に加えて、許可された範囲で復元や再現を確認することも、引継ぎ計画の一部です。
素材を保管していても、第三者に渡したり再利用したりできるとは限りません。利用許諾の範囲や承継条件は元契約で確認します。文化庁の著作権契約の説明と、当サイトの素材・権利台帳の引継ぎガイドもご参照ください。
クロージングをまたぐ案件の引継ぎ表
- 案件:顧客ID、制作内容、担当者、現在の工程。
- 納期:試写、修正、検収、納品の予定と確定状況。
- 費用:受領済み代金、未請求額、外注費、追加作業の見込み。
- 制作環境:使用する部屋・機材・ソフトウェアと予約状況。
- 納品後対応:再編集の窓口、保管期間、削除条件、問い合わせ担当。
一括して「全案件を承継」とする前に、契約上の承諾、データの移転範囲、担当者の対応可能性を案件ごとに確認します。資料全体のまとめ方は評価資料チェックリストで説明しています。
執筆・編集:映像制作M&A総合センター編集部。一般的な確認項目であり、個別の契約・法務・税務判断は専門家と確認してください。