企業価値を説明する資料は、多ければよいというものではありません。「何を根拠に、どの利益や強みを説明するか」をそろえることが大切です。このチェックリストは、映像制作会社が具体的なM&A検討に進んだ段階で使う、資料の棚卸し用です。初回相談の必須提出物ではありません。
価格そのものの考え方は、映像制作会社の売却相場・企業価値評価ガイドで解説しています。
資料の一覧には、基準日・管理者・未確認事項を残す
決算書、案件台帳、外注管理表で期間や集計単位が違うと、数値を比べられません。まず、一覧の基準日と対象期間を決めます。資料がない項目は空欄のままにせず、「未作成」「確認中」「該当なし」を分けて記録します。
| 資料 | 確認する中身 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 決算書・月次試算表 | 売上、費用、借入、現預金、売掛金の推移。 | 大型案件の計上時期、一過性損益、回収が遅れている債権。 |
| 案件別採算表 | 見積額、実際の売上、外注費、立替、社内工数。 | 追加修正・再撮影・納品後対応の未請求分。 |
| 顧客・受注一覧 | 顧客ID、発注経路、継続性、上位顧客比率、契約期間。 | 代表者個人への依存、見込み案件と確定受注の混在。 |
| 進行案件一覧 | 制作段階、納品・検収予定、残作業、前受金、未払費用。 | クロージング後も必要になる修正や外注費。 |
| 制作体制表 | 社員・業務委託の役割、担当顧客、代替担当、繁忙期の応援体制。 | 協力先の継続を確認せず、確約として記載すること。 |
| 権利・データ台帳 | 素材ID、権利者、利用範囲・期限、契約、保管先。 | データを保有していても再利用できない素材やライセンス。 |
| 機材・設備一覧 | 所有・リース、残債、型番、状態、更新時期。 | 個人所有の機材、共有設備、解約・移設費用。 |
| 重要契約一覧 | 顧客、外注、賃貸借、保守、ソフトウェア等の契約。 | 譲渡・支配権変更時の通知や承諾、解約、更新条件。 |
数字をつなぐ:案件台帳と決算書の差を説明する
案件台帳の売上合計と決算書の売上高が一致しない場合は、消費税の扱い、検収日と請求日、期をまたぐ制作、立替金の計上などを確認します。差額を無理に消すのではなく、原因と集計ルールを説明できるようにします。
粗利率は、何を原価に含めたかも記載します。外注費のみを原価にした数字と、社員工数まで配賦した数字を、そのまま比較しないようにしてください。台帳の作り方は案件台帳・受注残の実務ガイドをご覧ください。
権利・素材は、案件IDから契約へたどれるようにする
作品名だけでなく、素材・音源・フォント・出演者等の項目ごとに、契約や許諾記録の所在を記載します。「確認した人」「確認日」「利用できる媒体・期間」「再許諾や承継の確認状況」を残すと、追加調査の範囲が分かります。
利用許諾と権利の譲渡は別の契約です。必要な権利を整理する際は、文化庁の著作権契約の説明も確認してください。実際に承継できるかどうかは、元の契約と取引方法に応じて判断します。
開示用の資料と、社内の原本を分ける
- 初期整理:顧客名・個人名をIDや属性に置き換え、売上規模、得意分野、希望条件をまとめます。
- 候補先への打診:匿名資料でも会社が推測される可能性を確認し、相手と開示内容について売り手の了承を得ます。
- 具体的な調査:秘密保持契約に加え、個人情報と元の契約の条件を確認し、必要な範囲を開示します。
- 引継ぎ:契約で合意した範囲に沿って、権限付与やデータの受渡しを行い、実施記録を残します。
顧客名簿、素材原本、パスワードは、初回の問い合わせに添付しないでください。資料一覧には認証情報そのものを記載せず、管理責任者と受渡し手順を記録します。
そのまま使える棚卸しの記録項目
スプレッドシート等に次の列を作り、上のチェックリストを一行ずつ転記すると、準備状況を共有できます。
資料名/対象期間・基準日/管理担当/原本の保管先/開示用コピーの有無/確認状況/未解決の質問/次の対応/期限
記入例:進行案件一覧/9月末基準/制作進行担当/社内案件管理フォルダ/顧客ID版あり/確認中/追加修正費の請求可否/契約担当へ確認/社内で設定した期限。
すべてを一度に作る必要はありません。金額が大きい案件、特定の人しか対応できない業務、利用条件が不明な素材から、優先順位をつけて整理します。全体の準備順は譲渡企業が最初に整理すべき5つの論点も参考になります。
執筆・編集:映像制作M&A総合センター編集部。一般的な準備項目であり、個別案件に必要な資料や法的判断は専門家と確認してください。